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創作まとめ

【side_en】花を手に入れた旅人の話

O月X日。

花を、貰いました。


私がいつものように本の館で休んでいると、和服を着た幼い館長代理人がちょこちょことこちらへ歩いてきました。
一見、座敷童のように見える彼は私よりも年下ですが、館長直々に、この館の管理を任せている、結構偉いようなそうでないような役割を担っています。
そんな彼が、私の方へ、何かを持って私の方へ歩いてきました。

「お届けモノダヨ」

相変わらず語尾に違和感のある喋り方で、私に、一輪挿しの細い花瓶を差し出しました。そこにはやはり、細くて可愛い、手のひらほどの白い花が一輪。

「私に?誰が?なんで?」

「サアネ」

「まさか……ムナが!? うっわぁー?!」

「そんなコトするくらいなら舌噛み切って死ヌネ」

そんな軽い冗談を交わしながら手渡された白い花は、透明のガラスの花瓶に入れられて、薄いブルーのリボンでラッピングが施されていました。その姿は、まるで繊細なガラス細工のような、美しい儚さが感じられました。

「きれいなお花ですね…なんていう花なんでしょう」

「名前は無い、みタイヨ」

館長代理は、何やら小さなカードを読んでいました。それは花についての説明が書かれているもののようです。
なんでも、この花に名前は無く、未解明なことの多い謎の花だそうです。しかしながら、通称『旅人の花』とも呼ばれているようで、ある日突然枯れてしまうこともあれば、最長10年は持ったという例もあるのだとか。

「『ガラスのように冷たさと感触だが、非常にもろい』」

「丈夫なのか儚いのか、難しい花ダネ」

持ち主の保存の仕方によって寿命が変わるということでしょうか。私はその白い花を揺らさないよう、大事に両手で瓶を持ち直し、じっと見つめました。花のみならず、葉も茎までも真っ白なその花は、傾けると、光に反射してわずかに煌めいたように見え、その美しさに思わずうっとりしてしまいます。

「不思議な花ですね…」

私は今まで、いくつかのあらゆる『世界』を見てきましたが、このような花を見たことはありません。これは一体、どこに生えているのでしょう。この花の在った『世界』は、どんな所なんでしょう。

「この花をくれた方は、どんな方なんでしょうか……」

「そうダネェ。一言で言うなら……安心感」

「アンシンカン? 安心できるヒトって事です?」

「んー、ヒト、なのカナァ」

彼が『ヒト』という言葉を使うことに躊躇するのを見て、恐らく人間ではないのだな、と感じました。ヒトではないモノが此処へ訪れることはよくあることです。
果たしてこの花をくれた方がどんな方だったのか、私は今まで見てきた世界のヒトではないモノ達の姿を思い出していました。

「クァ? ねえ、裏になんか書かれテルヨ」

館長代理の言葉に、私はそのカードを受け取り、裏を見ました。そこには、花の説明では無い文章が手書きで一言、書かれていました。

「エン、なんて書いてあっッタノ?」

「…………。ムナ」

「クァ?」

「この花をくれた方に、お礼を言わなくてはいけませんね」

私はカードと花を大事に持つと、幾つもの"扉"がある奥へと向かいました。

実を言うと、私はしばらくの間、この館から、"扉"の外へ出ていませんでした。
私が“扉”を開け、外へ出ることが出来なくなってしまっていたのです。
ある日、外へ出ようと"扉"を開けると、向こう側が同じ部屋でした。最初は気にもしませんでしたが、何日経っても何度開けても、同じこの館のまま。この本の館は嫌いではありませんが、さすがに外に出られないのは困りものでした。
館長代理にそのことを話すと「アナタ自身が、此処から出たくないって思ってるからじャナイ?」と言うのですが、外に出たいから"扉"を開けてるのであって、やはり原因はよくわかっていません。
しかし今、この白い花を見ていると、再び外へ出られるのではないかと思えてきたのです。

「旅人には、小さな花が付きものですもんね」

遥か昔から、物語には定番の組み合わせというものがあります。勇者にはドラゴン。魔法少女には不思議生物。
そして旅人には、花。

「そウナノ?」

「そうですよ」

よいしょ、と、お気に入りの赤い鞄に荷物を詰めていると、館長代理がクスクスと含み笑いをしました。

「ヒキコモリ、家を出ル」

「大きなお世話ですよ」

ふと、会えますかね、と独り言のように呟いたら、「アイツよりは、探しやすいと思ウヨ」と彼は言いました。
私の探し求める『あの人』を『アイツ』と呼ぶことが引っかかりましたが、そこは無視して、引き続き旅立つ支度を進めます。

"扉"は、まだ開くでしょうか。私は、この花の在る『世界』へ向かうことができるでしょうか。この花をくれた方に、出会えるでしょうか。

小さな花をたずさえて。

2014/11/28.
 
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