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創作まとめ

【side_en】お使いを頼まれた旅人の話 その2

旅人が戻ったのは、日が変わろうとしていた夜中だった。




旅人には、今朝から、とある『世界』より1冊の書籍の捜索を頼んでいた。
納得のいかない顔をしながら渋々と旅立っていったので、帰宅とともに文句の一つや二つでも言われるかと思っていたのだが、むしろどこか機嫌が良いように見えた。
もどりましたよ、という一言の後に、渡された2冊の本。
蒼い布張りの表紙に、複雑な模様には銀が箔押しされている。年季の入った重みがあるにも関わらず、その装丁の美しさは、眺めているだけで時を忘れてしまいそうな程だ。全く同じ装丁が成されたそれは、紛れもなく、捜索を依頼した本だった。
一日でよく見つけ出したものだと感心していると、旅人は何やら此方を見てニヤニヤとしている。

「……どうしたの、気持ち悪イ」

「ふふふ。見てください、こんなものを貰っちゃいました!」

待ってましたと言わんばかりに差し出された旅人の手のひらに納まっていたのは、小さな蒼の硝子玉。

「へぇ……、こりゃ珍シイ」

「すごく綺麗ですよねぇ! あちらの『世界』では、もっと綺麗に、ぽわーって光ったんですよー」

手のひらに転がる硝子玉は、館内のわずかな光でさえも反射させ、まるで月夜の湖の水面のように、きらきらと輝いていた。しかし館長代理が「珍しい」と言ったのは、その美しさからのみではない。
旅人が持ち帰った本と、よく似た力を持つ玉だったからだ。

「ネェ。これをくれたヒトって、フツーのヒト、ダッタ?」

館長代理の問いに旅人は不意をつかれたようだ。きょとんとした顔をして、答える。

「お店番さんは普通の方でしたよ。ただ、お店自体が、ちょっと不思議な所でしたけど」

聞けば、自分以外の客が小鬼であったとか、命を得た水の金魚が宙を漂っていただとか。
つまりは、そういう類の古書店であったことには間違いなさそうだ。そうなればその『お店番さん』が普通のヒトである訳がないと思うのだが。
館長代理は硝子玉から微かに水の香りを感じながら、旅人に、なぜこの玉を渡されたのかと問うと、「そういえば何故でしょう?」と首を傾げられ、呆れた。

「そんなことよりも、ねぇ、ムナ。使ってない小瓶とかありませんか?」

この旅人は、手に入れたものを瓶に入れて飾る癖がある。貸している部屋には大小いくつものガラス瓶が並んでおり、今回も同じように、ガラス瓶に入れて、その宝を飾るのだろう。

「アイツの部屋にあるんじャナイ? テキトーに持ってって良いと思ウヨ」

そうですか、ありがとうございます。
そう言って去りゆく旅人は、新たな旅で得た宝を大事そうに手に包み、今にも踊り出しそうな足取りでカウンターの奥にある部屋へと向かっていった。
旅人が訪れた『世界』に対して気になることはあるものの、当の本人がとても嬉しそうだったので、館長代理は何も言わないことにした。




2015.8.10.
2015.8.17.加筆修正


きらきらと煌めく蒼い硝子玉。
旅人の宝物がまたひとつ増えました。
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