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創作まとめ

【side_en】道標と再会した旅人の話 その1

□月△日 

友人と、再会しました。




冷たい雨が降る夜。館の大きなガラス窓から見える風景は水飛沫でひどく曇っていました。普段はまっすぐに立っている木々も、横殴りの雨風にぐにゃぐにゃと踊らされています。
こんな日に外へ出たら、また飛ばされてしまうんだろうなぁ。そんなことをぼんやり考えて、今日は大人しくこの『木立瑠璃館』で、次の旅の準備をするつもりでした。

人気のないこの図書館は、いつものことながら足音がよく響きます。遥か高くの天井まで届かんばかりの巨大な本棚。その間をすり抜けて、館の中央に位置するカウンターへ向かいました。
そのカウンターに入って奥にある長い廊下には、いくつもの扉が並んでいて、その中のひとつが、私の借りている部屋です。
一応、「関係者以外立ち入り禁止」となっている場所のため、ここの館長代理にひと声かけてからと思っていたのですが、いつもなら座敷童のごとく鎮座している例の代理が見当たりません。
行燈を模した白熱灯が、カウンターに積まれた本の山を寂しく照らしているのみでした。

バカみたいに広い館内ですが、バカみたいに閑散としているので、声はきっと遠くまで響くことでしょう。振り返り、書架に向けて、館長代理の名を大声で呼んでみます。

「ムナぁー!いないんですかぁー!」

「何か用?」

「うわっ!? 出た!!」

「自分で呼んどいて出たとは何ダ」

突如ひょっこりと現れた黒い髪のおかっぱ頭の和服を着た少年。まるで座敷童のような外見をしながら、ここの館長代理を務めるムナは、カウンターの下に隠れていました。
そんな所から不意に出てこられたら、誰だって驚くと思うのですが……。

「いやいや、すみません。でも、そんな所でなにやってるんです? 隠れ鬼?」

「違ウ。……あのね、今、ヘビの目撃情報が多数あッテネ。もしかしたらと思って探しテルノ」

「へび?……ヘビって、あの爬虫類の?」

「それ以外に何がアルノ?」

森や、田舎や、ジャングルや、アマゾンや、沖縄や、お酒の中にいる、足の無い、ぐにゃぐにゃした爬虫類。それが図書館に居るなんて、何があったのでしょう。迷い込んだのか、誰かが持ち込んだのか。はたまた実は、利用者か。
――普段、ここへ現れる『利用者』は、人間だけではありません。ヒトとは明らかに違う生き物、はたまた生き物ですら無いものも訪れることが、多々あります。というか、実は人間よりもそちらの方が多いのですが……。

「んー、タダのヘビなら良いんダケド」

「ただのヘビ?」

毒ヘビだったらという事でしょうか。それにしてもムナの様子は、やたら心配しているように思えます。
引き続き床に這いつくばるようにヘビを探し始めるムナの様子を、下手したらヘビが出る事よりも奇妙だと思っていると、ふと、書架の陰の中から、するりと細い光が現れたのです。

「あれ?」

それをじっと見つめると、徐々に光は近付いてくるではないですかーーいや、あれは、光じゃない。
細くて白くて、くねくねしてにょろにょろしているその姿は、間違いなく――

「へび?」

「ヘビ?」

「へびです!?」

「ヘビダネェ」

私は驚いて反射的に、跳ねるようにカウンターの裏へと逃げてしまいました。目の前に現れたヘビは、艶やかな白い鱗を書架のわずかな光に反射させ、音もなく地を滑りこちらへ近づいてきます。驚いて何も言えない私を横に、ムナは前へと出てきて、クァ、と笑いました。

「やっぱし、アンタだっタンダ」

「ああ……随分と驚かせてしまったようだね」

ふと、聞き覚えのある声がしました。それは懐かしさのあまり涙が出そうになる程に。
その声を聞くまで、どうして思い出さなかったのでしょうか。私は思わず彼の名を叫んでいました。

「コーダ!!!」

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